東京高等裁判所 昭和46年(行ケ)56号 判決
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〔事実〕一 特許庁における手続の経緯
原告両名は、昭和三十七年一月二十九日、名称を「襞のある模様状縁飾を備えた靴下」とする考案につき、実用新案登録を出願(昭和三十七年実用新案登録願第三〇七〇号、以下「本願」という)したところ、昭和三十八年十二月九日拒絶査定を受けたので、昭和三十九年一月十一日これに対する審判を請求し、同年審判第三五二号事件として審理され、昭和四五年一月七日出願公告されたが、同年一月二一日登録異議の申立があり昭和四十六年二月二十四日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決がなされ、その謄本は、同年四月二十八日原告両名に送達された。
二 本願考案の要旨
横編靴下素体(1)の口編部を引張つて拡開した状態に於て、その外周囲部(2)に、布地、経編地のような横編地に比し伸縮性の乏しい帯状片(3)を囲繞してその帯状片(3)の上下縁部(a)(b)を除く内側部分(c)をその拡開せる口編部の外周面部(2)に沿うてゴム糸(4)にて縫着した後引張つて拡開していた口編部よりその伸張力を除く事に依つてその外周面部(2)に襞のある模様状の縁節(f)を伸縮自在に設けて成る襞のある模様状縁飾を備えた靴下の構造<後略>
〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 当裁判所は、次に説示するとおり、本件審決には、これを取り消すべき事由があるとする原告の主張は、理由がないものと判断する。すなわち、第一引用例(昭和七年実用新案出願公告第六二八二号公報)には、靴下の穿き口部の外側に、あらかじめ襞を形成した布片を当て、その上下縁を縫合し、その内部に伸縮紐を挿入した靴下の構造が記載されていることが認められ、これを本願考案の要旨と対比すれば、本願考案が比較的伸縮性に富む横編靴下素体の口編部を引張つて拡開した状態において、その外周面部に比較的伸縮性の乏しい帯状片を囲繞し、その拡開せる口編部の外周面部に沿うてゴム糸にて縫着した後、その伸張力を除くことにより、その外周面部に襞のある模様状縁飾を形成せしめる構造を有する点において、襞のある模様状縁飾を形成する手段を異にするが、両者ともに襞のある縁飾を靴下の口編部の外周面部に縫着し、かつ、右口編部に緊定を目的とする伸縮性ある紐または糸が用いられている靴下である点においては一致する。そして、第二引用例(昭和三六年実用新案出願公告第三二四四九号公報)には、適宜の幅員を有する環状に形成せられた布地等をもつて構成せられた靴下止め主帯の内周面に、内面に滑り止め用ゴム条を全体または局部的に経糸とともに参加させて形成した弾性緊定帯を添設し、主帯と弾性緊定帯とを、弾性緊定帯の伸張下において縫着により一体化し、主帯上に緊定帯の緊縮による多数の襞状編皺部を形成せしめて成る婦人用靴下止めの構造が記載されていることが認められ、これを前示本願考案の要旨と対比すれば、両者は、ともに、伸縮性を有する弾性緊定帯(第二引用例のもの)または横編靴下素体の口編部(本願考案のもの)を、引張つて拡開した状態において、その外周面部に、主帯(第二引用例のもの)または帯状布片(本願考案のもの)を縫着し、この拡開を解くことにより、主帯または帯状布片に襞を形成せしめる構造を有する点において一致している。しかして、さきに認定したところから明らかなように、第二引用例記載のものは、婦人用靴下止めの縁飾に関する考案にかかり、本願考案も靴下口編部の緊定部分の縁飾に関する考案であるから、両者は、靴下止めと靴下との差異はあるが、等しく靴下の口編部の緊定を目的とする緊定部に関するものである点において同一の技術分野に属し、第二引用例記載の前記構造を本願考案に転用することは、当業者にとり、きわめて容易であると認められる。また、前示当事者間に争いがない本願考案の要旨によれば、本願考案では、靴下素体口編部と帯状布片を縫着する手段がゴム糸に限定されていることが明らかであるが、一般に、適度の緊定および伸縮を必要とする箇所にゴム糸を用いることが本願出願当時に周知のものであることは、第三引用例(昭和三五年実用新案出願公告第五六三三号公報)および第四引用例(昭和三五年実用新案出願公告第六七二一号公報)により明らかなところである。
以上によれば、本願考案をもつて、第一引用例ないし第四引用例記載のものからきわめて容易に推考しうるとした本件審決の認定判断は正当であり、原告主張のような違法はないといわなければならない。
原告は、本件審決が本願考案と第一引用例との対比において、「両者は、靴下素体よりも伸縮性の乏しい帯状片製の襞のある縁飾を靴下の口編部の外周部に縫着した靴下である点で一致している」旨の認定に対し、右第一引用例には、この点についての明確な記載がなく、かつ、帯状片にバイヤスを用いる場合には、靴下の穿き口部をメリヤス編にしたときも、襞布が、その伸縮性において穿き口部の生地と同等または勝る場合がある旨主張するが、第一引用例には、靴下の口編部に「メリヤス」が用いられる場合があることが記載せられている反面、帯状片については「襞ヲ形成セル布片」または「他ノ任意ノ布帛」と表示されているのみであつて、原告主張のごとく帯状片が特に靴下口編部より伸縮性を有する生地を用いる旨の記載はないのであるから、第一引用例の記載は、靴下の口編部よりも伸縮性の乏しい帯状片が使用せられる場合をも包含するものと認めることができ、原告のこの点についての主張は理由がない。
また、原告は、第一引用例記載のものは、帯状片を靴下の口編部に縫着するに際し普通の糸を使用していると認められるから、この場合、ゴム紐は伸縮力を有しない糸によつてその伸張が妨げられ、縫着に際しゴム糸を使用した本願考案の有するごとき顕著な作用効果を有しない旨主張するが、さきに説示したごとく、第二引用例には、主帯と弾性緊定帯とを、弾性緊定帯の伸張下において縫着により一体化する点についての構造が開示せられており、この場合には縫着糸により主帯および弾性緊定帯の伸張力が妨げられることはないと認められるから、右構造を本願考案に転用しうる以上、第一引用例についての右の点は前説示の判断を左右するに足りるものではなく、原告のこの点に関する主張も理由がない。
次に、原告は、第二引用例との対比において、本願考案が履用心地を可良にする実用的効果と審美的効果をもつ旨主張するが、履用心地において両者間に顕著な差異があるとは認められず、また審美的効果は本願考案の有する固有の効果ではないのみならず、帯状片に襞を生じさせて得られる審美的効果は、第一引用例にも記載されているところであるから、この点に関する原告の主張も理由がない。
さらに、原告は、本願考案の靴下と第二引用例記載の靴下止めとは、その使用目的および物品の種類を異にするから、第二引用例の記載を本願考案に転用することはできない旨主張するが、両者は、ともに靴下を緊定する部位の縁飾に関する考案にかかり、したがつて、第二引用例記載の構造を本願考案に転用することは、当業者にとり、きわめて容易であるといわざるをえないのであつて、この場合に、靴下と靴下止めとは使用目的に差異があるとか、あるいは両者が物品として商標法または意匠法上の分類において相違するとかということは、なんら右の判断の妨げとなるものではないから、原告の右主張も理由がない。
なお、原告は、第三および第四引用例との対比において本願考案の新規な効果を主張するが、本件審決は単に伸縮を必要とする個所を縫着する場合に伸縮糸を用いることが本願出願前周知の手段であつたことの例証として右各引用例を引用したにすぎないのであるから、原告の右主張は当をえたものということはできない。
(むすび)
三 以上のとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の木訴請求は、理由がないものというほかはない。
よつて、これを棄却する。
(青木義人 瀧川叡一 布井要太郎)